【AK620】Ryzen 7 7800X3Dは空冷クーラーで冷やしきれるのか!?
4月14日に国内で解禁された"AMD Ryzen 7 7800X3D"。最新のZen4コアと96MBもの大容量L3キャッシュを搭載し、高いゲーム性能を発揮できることで知られている。
今回はそんな7800X3Dを、定番の空冷サイドフローCPUクーラーである"DeepCool AK620″を用いて使ってみたので、実際に冷やし切れているのか、スコアはどの程度なのか…などキニナル点をご紹介する。
型番の“3D”って?
そもそも、本稿で扱うCPU"AMD Ryzen 7 7800X3D"とは、どのような特性のCPUなのか。
まず目に入るのが、型番末尾の"3D"だろう。この特徴的なサフィックスは、AMD 3D V-Cacheテクノロジーを採用したCPUであることを表している。
通常、AMD Ryzen 7000シリーズではCCD(最大8コアのクラスタ)毎に32MBのL3キャッシュを搭載している。そこに、積層技術を用いて3D(縦)方向に64MBのL3キャッシュを積み重ね、通常の32MBと合わせてトータルで96MBもの大容量L3キャッシュを搭載したモデル。それが、3D V-Cacheテクノロジーを採用したRyzen 7000X3Dシリーズである。
3D V-Cacheを採用した最初のCPUは、2022年4月に発売された"Ryzen 7 5800X3D"だ。これは、Zen3アーキテクチャの8コアCPUにL3キャッシュを積層したもので、7800X3Dと同じく96MBを搭載している。Ryzen 5000シリーズは2020年の発売当初、高いマルチスレッド性能とゲーム性能、そして何よりも驚異的なワットパフォーマンスでたちまち人気となった。当時はIntelがSkylakeの系譜を引いた第10世代 Coreプロセッサ"Comet Lake-S"を主軸としたラインナップを展開しており、あらゆる面でRyzen 5000シリーズに劣っていた。しかしながら、時代は進み2021年後半から2022年初頭にかけてIntel 12世代 Coreプロセッサ"Alder Lake-S"が発売されると、さすがにRyzen 5000シリーズではゲーミング性能において引けを取るようになってきた。そうして、AMDがL3キャッシュを大幅に増加させた"Ryzen 7 5800X3D"を発売するに至る。メモリアクセスがボトルネックになりがちなゲームにおいてキャッシュ容量の増加は大きな意味を持ち、テクスチャの読み込みなどでメモリアクセスが多いと思われる"Microsoft Flight Simulator"や"Escape from Tarkov"、"VRChat"などを筆頭に多くのゲームで当時最強の"Core i9 12900K"に匹敵・あるいはそれをも凌駕する驚異的なパフォーマンスを発揮することが確認された。はじめはあまり注目されていなかった同CPUだが、前評判とは一転して徐々に人気が出ることとなった。
“AMD Ryzen 7 7800X3D”は熱を持ちやすい?
さて、3D V-Cacheの概要について簡潔に解説したつもりが思ったよりも長くなってしまった。この場を借りてお詫びしたい。
ここで本題、「"AMD Ryzen 7 7800X3D"は熱を持ちやすいのか?」という疑問についてに入る。
「Ryzen 7グレードなら言うほどでしょ」とか「いやいや、TDP120Wだからそれなりに熱いと思うよ」など、様々な声が聞こえてきそうだが、その前に。
3D V-Cacheテクノロジーによる64MBのL3キャッシュは、CPUダイの上に実装されているのだ。つまり、その分上に何も載っていない通常のCPUと比べて、熱が籠りやすいというわけである。熱が籠りやすければ、いくら発熱が少なかろうが温度は上がりやすくなってしまう。さらには、3D V-Cacheの実装方法が熱にあまり強いものではないという推測も立っている。※これについては、ASCIIの記事で解説されている内容になる。
要するに、Ryzen X3Dシリーズを選ぶ際は(それなりに)冷却に気を遣う必要があるわけだ。
Ryzen 7 7800X3Dは期待のCPUということもあり、大手メディアによるレビュー記事が多数公開されている。しかし、それらの多くは大型の簡易水冷を用いたガチガチの検証環境であり、空冷クーラーでどの程度の冷却が可能なのかは分からない。
そこで、筆者自ら7800X3Dを購入し、旧メインPC(5800X3D)の頃から愛用していた定番サイドフロー空冷クーラー“DeepCool AK620”で運用、検証してた。
現在AK620をはじめとした高性能な空冷クーラーを使用していてそれを流用したいと考えている方、少しでもコストを抑えたい方、簡易水冷アンチの方に有用な記事となっているはずですので、是非最後までご覧ください。
検証環境
今回検証を行ったのは上記の環境である。特別な検証環境を用意する金銭的・時間的余裕もなく、リニューアルしたメインPCにて行うかたちとなった。
ケースはNZXT H510 Flow、ケースファンはFractal Design Aspect 14 (FD-F-AS1-1401) をフロント×2、サイズ違いのAspect 12 (FD-F-AS1-1201)をトップとリアに1つずつ配置しており、エアフローは十分なものとなっている。
その他、CPUのブースト設定や電圧などは、特記がない限りマザーボードのデフォルト値のままとした(PBO設定はAuto)。
マザーボードのBIOSバージョンは「1.20.AS01 (AGESA ComboAM5 1.0.0.6)」を使用している。
検証結果
前置きが長くなったが、検証結果を見ていこう。なお、値は全てソフトウェア読みであることをご了承いただきたい。
ベンチマークソフト
まずは、ベンチマークソフトを動かした際の計測結果だ。
FFXVベンチマーク(FHD高品質)、OCCT v11.0.21 Linpack(10分間)、CINEBENCH R23(10分間)における最大パッケージ温度と最大消費電力を表している。
結果はご覧の通り。
最も温度が上がったのはCINEBENCH R23で、最大88.5℃まで上昇した。製品仕様上の最大温度は89℃に設定されているため、その限界に近いところまで上がっていることになる。やはりRyzen 7 7800X3Dを空冷クーラーで冷却するのは無理があるのだろうか。
ここで、サーマルスロットリングが発生しているかどうかを確認してみよう。最大88.5℃まで上昇したCINEBENCH R23のマルチスレッドスコアは、「18510 pts」だった。これは、大手メディアによるレビュー記事で公開されているスコアを軒並み上回る値である。温度は上限値に近いところまで上昇しているものの、性能はしっかりと出し切れているということが分かる。
その他、OCCT LinpackやFFXVベンチマークを実行している際の最大温度はそれぞれ83.4℃、83.9℃と、高温ではあるものの通常使用において問題視するほどでもない程に収まっている。
ゲーム中
さて、それでは7800X3Dが最も使われる用途と考えられる、FPSゲームを動かした際の温度変化を見ていこう。
なお、使用しているGPUによってCPU使用率が変化し、結果としてCPU温度が変わってしまうことがある。そのため、掲載しているグラフや値は全て参考値として見ていただければと思う。
Apex Legends
まずは、人気FPSゲームであるApex Legends。解像度はWQHD、ビデオ設定は低設定で計測している。
計測時間は30分程度で、「トリオ」モードにて2試合プレイした際の温度と消費電力の変化グラフである。
ここでもCPU温度は80℃前後を推移しており、ゲーム中にしてはなかなかに高い温度に思える。一方で消費電力グラフを見てみると、プレイ中は驚異の40W前後。最大でも53.8Wと、非常に低い値で推移していることが分かる。ここから言えることは、少なくとも"Ryzen 7 7800X3D"を"DeepCool AK620″で運用すると、フルロード時・ゲームプレイ時などその状況や消費電力に関わらず高温になるということだ。
Battlefield 2042
Battlefield 2042はCPU負荷が高いゲームだ。特に、6コア以下のCPUや旧世代の8コアCPUでは使用率が100%近くになることも珍しくない。
そんなBF2042では、どの程度の温度になるのだろうか?
こちらはFHD解像度で実行し、画質設定はノーマルとした。計測時間は10分程度で、「コンクエスト」モードプレイ時の温度変化をグラフにしたものである。
Battlefield 2042でも先ほどと同様、80℃前後を推移している。CPU使用率や消費電力はApex Legendsのプレイ中よりも圧倒的に高いが、温度に大きな違いは見られなかった。
まとめ:Ryzen 7 7800X3Dは空冷でも大丈夫!
以上の検証結果から、Ryzen 7 7800X3Dを比較的高性能な空冷クーラーで運用することは「問題ない」と言えよう。CINEBENCH R23スコアを見る限りではサーマルスロットリングによる性能低下は発生しておらず、CPUが持つポテンシャルを存分に発揮できている。一部ソフトにおいて上限値である89℃付近まで上昇する場面も見られるものの、Ryzenの特性上限界値を超える危険域まで温度が上昇することはないため、特に心配することなく運用できるだろう。
ただし、温度が高くなりがちなことに間違いはないため、この値に不安を感じる方には280mm~360mmの簡易水冷クーラーを素直におすすめしたい。また、安価な空冷クーラーや120mm簡易水冷などは避けておくのが無難だろう。
Discussion
New Comments
文の間に空間を設けると読みやすくなると思いました。
普通に読みやすいですよ。上の人はしっかり読まずに概要だけちらっと見て言ってそうですね。
9700Xから7800x3dにしたら想定以上に温度が高く
シネベンチR23最大86℃
何度もCPUクーラーを取り付け直しました
全く改善されず個体差なのかと悩みましたがそれ位の温度になるCPUだと言う事がわかり納得し安心しました 記事を書いてくれてありがとうございます
大変助かりました